ピアノで奏でる仏さまの心 伊川大慶氏(石原山西覺寺)

自分らしく軽やかに

ピアノで奏でる仏さまの心

ボンズナビ事務局が掲載寺院の中から気になるお坊さんをご紹介する、「お坊さんPickUp」。今回は浄土真宗本願寺派布教使、また音楽ユニット「慶音(けい・おん)」メンバーとしてとしてご活躍されている、西覺寺(広島県、浄土真宗本願寺派)副住職の伊川大慶氏をご紹介します。

伊川大慶氏インタビュー

ピアノが与えてくれた出会いとご縁

ーー伊川さんは副住職をされながら音楽活動にも力を入れておられますが、ピアノはいつから始められたんですか?

伊川 ピアノは6歳の時から始めて、高校3年までピアノ教室に通っていました。

ーーでは音楽系の大学に進学されたんですか?

伊川 いえ、普通の大学に進学しました。大学の間は特にピアノには触れてなかったんですけど、卒業後に東京の宮地楽器というヤマハ特約の楽器店に就職して、今度はピアノを売る側になりまして(笑)。勤め先にはピアノ教室があったので、そこでまたピアノを習い始めて、4年ほど勤めた後にお寺に戻ってきました。ちなみに今でもちょくちょく習っています。

ーー本当にピアノがお好きなんですね(笑)。フルート奏者の奥様とデュオ活動もされておられるとか。

伊川 妻とのデュオは今はお休みさせていただいているのですが、もともと妻は東京でプロのフルート奏者として活動していて、私の勤め先のフルート教室に講師として採用されてきたのがきっかけで知り合いました。私がお寺に戻った後に結婚し、それからしばらくは2人でお寺や様々な場所で演奏会をさせていただきました。今でも妻はお寺でフルート教室をしております。

ーーお寺の若さん夫婦が演奏されるなんて、ご門徒の方々は喜ばれたでしょう?

伊川 そうですね。帰った当初は喜んでくださっていました。彼女はクラシックが本業ですけど、ご門徒さんの前ではポップスや演歌、童謡なども演奏させてもらったりして。しばらく出来ていないので、また夫婦で演奏できる日が来ることを願っています。

仏さまの教えを歌にのせて

ーー現在、僧侶の音楽ユニット「慶音」のメンバーとして活動されていますが、そのきっかけは?

伊川 慶音は2年ほど前に結成したのですが、先輩僧侶の方から行事で何かやってくれないかと頼まれたのがきっかけですね。その時には妻とのデュオ活動は休止していたのですが、「君はピアノが出来るんだから何か考えてみないか」と。そこで思いついたのが、ギターとボーカルを担当している枝廣君でして。
彼とは若手僧侶の集まりで付き合いもあったし、バンド活動やストリートミュージシャンもしていたので、2人で仏さまのおこころをよろこべるようなうたを一緒にやっていこうと声をかけたのがきっかけです。

ーーなるほど。主にどんなところで活動されているんですか?

伊川 色々ですね。今は広島県内が多いですけれど、呼ばれたらどこにでも行きますよ。今年はコロナでかなり無くなりましたけど、お寺での演奏会だけでなく、老人ホームや地域のまつり、市の職員の退職会での余興で、という依頼もありましたね。先日初めてオンラインライブというのをやってみたんですけど、これからはこうしたオンラインライブの仲間も増やしていきたいですね。

ーーお寺以外でも色々な場所で活動されているんですね!

伊川 電子ピアノとかの楽器やスピーカーなどは全て持参しますので、コンセントがあればどこでも演奏できます!(笑)。お寺での法座の場合には、午前中は法話をさせていただき、午後から音楽で、という丸一日のご依頼もいただいています。

ーーそんなお寺の行事なら楽しいでしょうね!

自分らしく、み教えに光をあててゆく

ーー曲の中身は、やっぱり仏教的な内容?どんな歌詞なんですか?

伊川 そうですね。タイトルも「還相回向(げんそうえこう)のうた」や「恩徳讃(おんどくさん)慶音version」とか。歌詞は、そうですね…ちょっと待って下さいね…(歌詞カードを取りに退出)…こんな感じです。

ーー浄土真宗の用語がタイトルなのに、歌詞には「ミルクティ」や「沈む夕日のオレンジ」とか…仏教用語が全く使われてないんですね。

伊川 自分たちが今いただいている仏様のおこころを自分たちの言葉とメロディーで表現したのですが、「慶音」なりのオリジナル仏教讃歌を大切にしていこうと思っていまして。直接的な表現はしていないですが、実は身近な所に仏教を感じられることはたくさんあって、こういう歌詞でお浄土を感じていただけたらな、と。

ーー仏さまのこころを音楽で表現するのはすごく素敵だと思うのですが、伝統的なお寺の世界でこのような自由な表現をすることはなかなか難しいのでは?

伊川 そうでもないですね。私が気にしてないだけかもしれませんが(笑)

ーーでも音楽活動のほかにも、親鸞聖人御絵伝の副読本を自主製作されるなど、浄土真宗の伝統的な部分についてもアプローチされていますよね。

伊川 親鸞聖人のご命日を偲ぶ報恩講の際には、多くのお寺で聖人のご生涯を表す御絵伝が掛けられますが、その中身についてご門徒さん方はあまりご存知ないですよね。せっかくお掛けするなら知ってもらわないともったいないので、こういったものがあれば分かりやすいんじゃないかな、と。

ーー御絵伝の全図がイラスト入りで分かりやすく解説されていますね。これはお1人で作成されたんですか?

伊川 僧侶の仲間3人で「てんぷるらいふ」というグループを立ち上げて、テキストからデザインまですべて自分たちで製作しました。あるお寺からは「ご門徒さん全員に配りたいから」とご注文をいただいたりして、大変好評をいただいております。

ーー「仏教離れ」と言われている中で、色んなやり方で伝えていくのはとても大事なことだと思います。

伊川 「(仏教離れが進む)こういう状況だから、何かやらないといけない」という義務感ではなくて、むしろ自分がやりたいことをやっているだけなんですけどね(笑)。でも一人だとなかなか難しいですよね。自分も仲間がいたから出来たわけで。

ーーでは最後に、ご自身の活動を通して仏様のおこころを伝えていくことへの思いを聞かせてください。

伊川 日頃の法務やお説教、音楽をさせていただく中に、むしろ皆さまから「伝わってくるもの」が沢山あります。それを受け止めながら、活動していけたらと思います。「現代人の仏教離れ」って言われてますけど、そもそも自分自身も現代人ですし、自分が仏さまの教えに遇えてよろこんでいるんだから、この教えが広まっていけば同じようによろこぶ人がきっと出てくるだろうと。なので自分としては、これからも自分自身を見つめながら、ご縁に遇えたよろこびを自分なりに表現していければなと思っています。

ーー伊川さんはここでご紹介した「慶音(けい・おん)」「てんぷるらいふ」での活動のほか、お寺でも様々な取り組みをされており、ご自身でポッドキャスト(仏教なもあみラジオ!)も運営。常に自然体でありながら、自分らしい表現・手法でみ教えに光をあててゆく伊川さんの今後のご活躍に期待しています。本日はありがとうございました。

伊川大慶氏のお寺はこちら